ゾンビ屋れい也 シキ編1


「本当にできるのか?死者を蘇らせるなんて・・・」
「オカルトテレビの見すぎじゃないのか、3代目もモウロクしたな」
「しっ、来たぞ・・・」
立派な作りの和風の建物、老人と共にれい也は広い部屋に入る。
周りにはいかにもガラがわるくいかつい男達が取り囲み、訝しむ目でれい也を見ている。

「せがれは・・・この組の4代目になる人材であった。だが、殺されたのだ、心臓を1発で撃ち抜かれて・・・!」
二人は、部屋の中央にある棺を覗く。
まだ30代前後だろうか、線の細い青年が眠っている。
今は保冷剤で良好な状態を保っているが、腐るのは時間の問題だろう。

「生き返らせても、ゾンビは長くは動けませんよ」
「何もゾンビを4代目にするつもりはない、ただ犯人が知りたいのだ」
知った後はどうするのか、そこまでは語られない。
とりあえず、代金さえもらえれば私情はどうでもよかった。
れい也は鎖を取り出し、手際よく死体に巻きつける。

「てめえ、若に何してやがる!」
いきり立つ男を、老人は片手を上げて制する。
「強い恨みを抱いていた場合、その相手に襲いかかる危険があります。その予防策です」
鎖をきつく巻き、死体を座らせる。
そして、れい也は掌に描かれた紋章を天に掲げた。


「魔王サタンよ、世の願い聞き入れたまえ!この者に一時の息吹を与えられんことを!」
堂々と呪文を唱え、静寂が流れる。
周囲の疑いの眼差しが注がれたとき、死体の指が驚いたように動いた。

一早く気配を察した老人が目を丸くする。
死体であった青年はゆっくりと体を起こし、周囲を見回していた。
疑いの眼差しが、驚愕に変わる。
そして、一人から強い恐怖の感情。
青年は、ゆっくりとその男を指差した。

「殺せぇぇぇー!」
物静かだった老人は、とたんに目をひんむいて豹変する。
怒号の合図で、周囲の男達から容赦なく銃弾が浴びせられる。
指を刺された男は、逃げる間もなく蜂の巣に変わり果てた。
畳が真っ赤に染まり、鉄臭さが充満する。
倒れた男を見て、青年はわずかに微笑んでいた。

「サタンよ、この者に永遠の安らぎを」
れい也が唱えると、青年は棺に戻る。
老人の目からは、すっと狂気が消えていた。
「姫園様、無念を晴らすことができ感謝いたします」
老人は、深々と頭を下げる。

「これが仕事なので。では、代金を」
老人は表を上げると、すっと男達の方へ移動する。
周囲の拳銃は、まだ構えられたままだ。

「誠に申し訳ないが、4代目が死んだことを他の組に知られる訳にはいかないのでな」
れい也は薄々予測していたのか、軽くため息をつく。
「報酬に釣られたけど・・・やっぱりヤクザは相手にするもんじゃないな」
「せめてもの礼に一瞬で逝かせよう」
老人が手を上げると、拳銃の充填音が鳴る。
れい也は、とっさに掌を床へ向けた。
複数の発泡音、銃弾がれい也に浴びせられる。


「百合川!」
弾丸が届く前に、れい也は名を呼ぶ。
その瞬間、どこかの空間から鋭い目の青年が姿を表し、ナイフで弾を弾き飛ばした。
突然、畳から現れた青年に動揺が走る。
周囲がうろたえているその隙に、百合川は男達の首を鮮やかに切り裂いていった。
悲鳴を上げる間もなく、血飛沫を飛ばして一瞬で絶命する。

「な、何なんだ、おま・・・」
言葉を言い終えることも許されず、首が切り裂かれる。
発泡音がしても、数発の弾を受けても、百合川は害敵へ向かって行く。

「何なんだ、だって?ただのゾンビ屋さ」
百合川の手際の良い殺人は、最後の一人を始末するまで止まらない。
まさしく瞬殺、ものの数分で室内の生存者は一人だけになった。
敵がいなくなり、百合川は動きを止める。

「あーあ、これで報酬はナシか」
同情することもなく、れい也は肩を落した。
ゾンビ屋としての家業は危険が多い。
今回だって、依頼をこなしたのに口封じをされかけた。
自分の身を守るために強力なボディーガードが必要で、それが百合川だ。

少年29人の誘拐殺人犯だったが、最後は殺した者達のゾンビによって切り刻まれた。
人の風上にも置けない無慈悲な相手だったが、その手腕を買い、自分のゾンビとして従えている。
ゾンビ化してから何も話さなくなり、意思疎通は難しいものの
好戦的かつ逆らわない、ボディーガードにするには都合がよかった。




人気のない道を選び、れい也は家へ戻る。
血飛沫は浴びてないものの、血液の匂いは染みついてしまっていた。
「百合川」
一言名を呼ぶと、床からすっと百合川が現れた。
ゾンビといえども不死身ではなく、傷つきはする。
もし八つ裂きにされたら修復するまで召喚不能になり、しばらく家業も行えない。
れい也は百合川の周りを一周し、外傷がないか確かめた。

ヤクザとは言え普通の人間、身体能力が向上したゾンビにとっては赤子の手を捻るようなものだ。
鮮血は全て返り血だと思ったが、肩に一か所だけ穴が空いていた。
ナイフの扱いに支障が出てはいけないと、れい也は傷口を掌で覆う。
星の紋章で触れると、不思議とゾンビの治癒能力が高まる効果があった。

そのまま、1分後。
肩の傷は塞がり、服が破けているだけになった。
「よし、修復完了」
れい也が離れる前、ふいに百合川の手が伸びる。
指先が首元へ触れようとし、れい也はとっさに後ろへ飛んだ。
首を掻き切られるような気がして、とっさに警戒する。

「百合川、戻れ!」
れい也が命ずると、百合川は床へ沈むように地獄へ戻って行く。
主人に手をかけようとするなんて、自我が芽生え始めているのだろうか。
それなら別のゾンビを探せばいいと、れい也は淡白なことを考えていた。